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労働問題

解雇

1 解雇の種類

民法上,労働者の解雇は原則として自由とされており,解雇の種類としては以下のものが挙げられます。

 

 

⑴ 普通解雇

普通解雇とは,下記⑵⑶以外の解雇をいいます。代表例としては,労働者の労働能力の低下を理由とする解雇が挙げられます。

 

 

⑵ 整理解雇

整理解雇とは,使用者が,経営上の理由により人員削減の手段として行う解雇をいいます。

 

 

⑶ 懲戒解雇

懲戒解雇とは,労働者による企業秩序違反を理由とする懲戒処分としての解雇をいいます。

 

 

 

2 解雇の制限

上記1で述べたとおり,使用者が労働者を解雇することは民法上原則として自由なのですが,解雇は労働者の日常生活に重大な打撃をもたらすものです。そこで,労働関連各法は解雇について使用者に種々の制限を加えることにより,労働者の保護を図っています。

 

 

⑴ 手続上の制限

ア 解雇制限

法は,使用者は,労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間,並びに,産前産後休業の期間及びその後の30日間は,労働者を解雇してはならないと規定しています(労働基準法第19条1項)。

これは,労働者が業務上災害の場合や出産の際にも安心して会社を休めるよう保障したものです。もっとも,これには例外もあります(使用者が業務上疾病について打切補償を支払った場合や,天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合がこれに当たります。)。

 

 

イ 解雇予告

法は,解雇に伴う労働者への経済的損失を和らげるため,使用者が労働者を解雇しようとする場合においては,少なくとも30日前にその予告をしなければならないと規定しています(労働基準法20条1項)。もっとも,これにも例外があります(天災事変その他やむを得ない事由に基づく場合や,労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇がこれに当たります。)。

 

 

⑵ 解雇理由に着目した制限

ア 法令による制限

法は,差別的な解雇を禁止し,また,労働者による法律上の正当な権利行使を理由とする解雇を禁止しています(各種法令)。

 

 

イ 就業規則等による制限

法は,常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則に解雇事由を記載しなければならないと規定しています(必要的記載事項,労働基準法第89条3号)。

そして,就業規則に解雇事由が定められた場合,裁判例においては,これを限定列挙であると解釈するものが大半です。すなわち,定められた解雇事由以外の理由に基づく解雇を無効とします。そのため,使用者としては,解雇事由を慎重に定める必要があります。

 

 

ウ 判例による制限

従前より,判例は,使用者が労働者に対して一方的に行う解雇について,大きな制約を加えてきました。

 

 

ⅰ 解雇権濫用法理

判例は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められない解雇は,権利の濫用として無効としています。このことは,労働契約法第16条で明文化されています。

 

 

ⅱ 整理解雇の法理

整理解雇とは,使用者側が,経営上の理由により人員削減の手段として行う解雇をいいます。このように,整理解雇は,労働者側の事由を理由とした解雇でないことから,判例は,他の解雇と比べてより厳しい制約を課しています。

 

具体的には,以下の4要素を総合的に判断することにより,整理解雇の有効性を慎重に検討することになります。

 

 

① 人員削減の必要性

これについては,裁判例上,使用者側の経営判断が尊重されることが多いです。経営上の理由により人員削減の必要性があれば,裁判所が企業の経営実態に細かく踏み込んでまで判断することは差し控える傾向にあります。

 

 

② 解雇回避努力の有無

整理解雇以前に,使用者が他の合理的な代替手段をとって真摯に解雇を回避する努力を行っていたかどうかが判断されます。

 

 

③ 人選の合理性

使用者が客観的・合理的な人選基準に従って公正に解雇される者を決定したかどうかが判断されます。

 

 

④ 手続の妥当性

労働協約や就業規則に解雇に関する規定があればそれに則った手続を履践する必要があり,また,労働者に対して十分な説明をし,その納得を得るために誠実に協議したかどうかが判断されます。

労働条件の変更

1 労働条件の明示

法は,使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと規定しています(労働基準法第15条1項)。
仮に,使用者によって明示された労働条件が実際の労働条件と相違する場合は,労働者は即時に労働契約を解除することができます(同法同条第2項)。

 

 

 

2 人事異動

⑴ 昇進・昇格

昇進とは,企業組織上の地位である役職の上昇をいいます。昇格とは,基本給の判断基礎となる職能資格(職務遂行能力に基づく格付け)の上昇をいいます。これらの判断は,会社の上司等が従業員を観察して行う人事考課(査定)に基づいて決定されます。人事考課においては,仕事能力,勤務態度,業績等,各労働者の個別具体的な諸々の事情が評価の対象となりますので,使用者側に経営判断に基づく広い裁量権が認められると解釈されています。

 

そのため,労働者は,原則として,使用者による上記評価・決定がなされない限り,昇進・昇格した地位にあることの確認を請求することができません。もっとも,例外として,就業規則の定め等により,一定条件ないし期間を満たした場合等に昇進・昇格するということが契約内容となっている場合には,労働者は,昇進・昇格した地位にあることの確認を請求することができる可能性があります(裁判例)。

 

なお,人事考課が,差別や権利濫用にわたる場合には,労働者は,使用者に対し,損害賠償請求をすることが可能となります。

 

 

⑵ 降格

降格とは,役職又は職能資格を下げることをいいます。これには,人事考課に基づいて行われるものと,懲戒処分として行われるものの2種類があります。
まず,人事考課に基づいて行われる降格のうち,単に役職を下げるものについては,権利濫用にわたらない限り有効です。これに対し,職能資格を下げる降格については,基本給の低下を伴う労働契約上の地位の変更に当たりますので,これを使用者が行うためには,契約上の根拠(労働者の同意や就業規則上の規定)が必要であり,さらに,契約上の根拠が認められる場合でも,権利濫用と判断されるものは無効となります。
次に,懲戒処分として行われる降格については,第1に,「懲戒することができる場合」(労働契約法第15条),すなわち就業規則などにその根拠が規定されていることが必要となります。第2に,上記の「懲戒することができる場合」であっても,労働者の企業秩序違反行為の大きさと比べ,懲戒処分としての降格が不相当に重い場合には,社会通念上相当として是認できないものとして権利の濫用に当たり,無効とされる可能性があります。

 

 

⑶ 配転

配転とは,職務内容や勤務場所の変更のことをいいます(短期間の出張は除かれます)。長期雇用慣行が根付いている日本の企業において,労働者を1つの職場・仕事に拘束させずに,幅広い能力の開発や雇用の柔軟性確保という要請に答えることが期待されます。
ただし,使用者による労働者に対する配転命令につきましては,判例上,以下の2つの制約が課されています。

  • ア まず,使用者による配転命令が有効であるためには,配転命令をできる旨の規定が就業規則や労働協約によって根拠づけられていることが必要となります。
  • イ 次に,上記アのように就業規則や労働協約により配転命令することができる旨を規定されている場合であっても,①配転命令に業務上の必要性が認められない場合や,②不当な動機・目的で行われた場合,また,③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被らせるものである場合等には,特段の事情がない限り,配転命令は権利濫用として無効となるとするのが判例です。

 

 

⑷ 出向

出向とは,労働者が元の使用者との労働契約関係を維持しつつ,他の使用者のもとで就労することをいいます。出向は,配転と異なり,労働者の労務を提供する相手方である使用者の変更を伴いますので,これには労働者の承諾が必要となります。

 

 

⑸ 転籍

転籍とは,労働者が元の使用者との労働契約関係を終了させて,新たに他の使用者と労働契約を締結することをいいます。

残業代請求への対応

使用者は,労働者に対し,法定労働時間(1週間につき40時間,1日につき8時間)を超えて労働させることができないのが原則です。もっとも,法は,この例外として,一定の場合に法定労働時間を超える労働(時間外労働)をさせることができると規定しています。この時間外労働に対しては,割増賃金が支払われなければなりません。これがいわゆる残業代です。

 

 

 

1 時間外労働が有効であるための要件

使用者が,労働者に対し,法的に有効な時間外労働をさせるためには,労働基準法上の要件を満たしていること及び契約上の根拠があることが必要です。すなわち,実際に時間外労働を命じるためには,36協定の締結・届出などの労働基準法上の要件を満たすことに加えて,労働契約上時間外労働を行う義務を設定しておく必要があります。

 

 

 

2 割増賃金(残業代)

労働基準法上の時間外労働については,通常の労働時間又は労働日の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で命令の定める率以上の率で計算した割増賃金が支払われる必要があります(労働基準法第37条1項本文)。ただし,時間外労働時間が1か月につき60時間を超えた場合においては,その超えた部分の労働については,5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(同ただし書)。ここで,労働基準法上の要件を満たさずに行われた時間外労働についても,割増賃金の支払義務は当然及ぶと解釈されていることに注意する必要があります(判例)。

また,深夜労働,すなわち,午後10時から午前5時までの間の労働については,2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
さらに,時間外労働と深夜労働とが重複した場合には,割増率は合算され,5割以上(時間外労働が月60時間を超えた場合には,その部分につき7割5分以上)の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法施行規則20条)。

セクハラ・パワハラ

職場におけるいじめや嫌がらせのうち,相手方の意に反する不快な性的 言動を「セクシャル・ハラスメント」(セクハラ)といいます。また,職務上の地位や権限を利用したいじめや嫌がらせのことを「パワー・ハラスメント」(パワハラ)といいます。これらの行為が私法上違法といえるかどうかについては,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)や債務不履行に基づく損害賠償請求(民法第415条)などの要件に該当するかどうかという観点で判断されます。刑法上の観点からしますと,上記のいじめや嫌がらせが強要罪(刑法第223条)や強制わいせつ罪(刑法第176条)などの構成要件に該当する場合には,加害者は刑事責任も負う可能性があります。

 

なお,男女雇用機会均等法においては,性的な言動に対する対応により労働者が労働条件上不利益を受けたり職場環境が害されたりすることがないよう,事業主に対し雇用管理上必要な措置を講じる義務が課されています(同法第11条)。

 

また,使用者は,被用者が行ったセクハラ,パワハラが不法行為に当たる場合,使用者責任(民法第715条)を負う可能性があることに注意を要します。以下に記述する問題社員対策を講じることが求められます。

労災

労働者について生じた,業務上の傷病・死亡や,通勤による傷病・死亡につきましては,使用者側の過失を問わずに,労働者に対し,法律に定められた定型的な給付がなされます(労働者災害補償保険法)。これは,労働者を民法第709条の不法行為の立証の困難から救済するとともに,使用者の無資力のリスクをカバーする制度です。このような労災補償制度は,社会保険制度の形をとり,政府が,使用者から保険料を徴収して,被災労働者やその遺族らに対して直接保険給付がなされます。

 

 

1 業務災害

業務災害に当たるかどうかについては,①業務遂行性と②業務起因性により判断されます。①業務遂行性については,労働時間中に生じた災害はもちろんのこと,参加が事実上強制されている宴会や運動会において生じた災害,また,出張中(移動中や宿泊中を含みます。)に生じた災害でも,業務遂行性が認められるとするのが裁判例です。次に,②業務起因性については,業務に内在する危険が現実化したといえる場合に,これを認めるのが裁判例です。例えば,平成7年に生じた阪神大震災の際に生じた災害については,震災を受けやすい場所で勤務していたということで,業務起因性が多く認められました。

 

 

2 通勤災害

通勤災害とは,「労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡」をいいます(労働者災害補償保険法第7条1項2号)。ここにいう「通勤」とは,自宅と勤務先の往復のみならず,単身赴任者等の住居間移動等も含まれ,これらの場所の間を合理的な経路と方法で移動することをいいます。もっとも,夕食の買い物という日常生活上必要な行為であったとしても,移動経路からの逸脱が認められる場合には,「通勤」に当たりません。

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