公益通報への対応
企業内不祥事への対応が社会問題化し、平成16年に公益通報者保護法が成立しました。法律名からは、どんな事柄でも公益のためには通報を推奨するような印象を受けるかもしれませんが、法律の内容は必ずしもそうではありません。公益通報者保護法は、通報者を保護することももちろん目的とされていますが、通報を受ける企業に対してもその指針となるものです。
公益通報とは、内部通報や内部告発とも言われます。このような通報は、以前は、不正や危険性に気がついた従業員が、職を賭して通報に至るという印象がありました。これは、通報を行った結果、その従業員は企業イメージを損なった、あるいは会社の一体感を損なった裏切り者とされ、左遷させられたり退職に追い込まれたりされるという事情があったからです。
しかし、公益通報者保護法の定める通報対象事実は、国民の生命、身体、財産に関わるものに限定されています。そのような通報は、社会としても、会社としても本来は望ましいことであるはずなのです。
公益通報者保護法の柱は、公益通報者に対する不利益な処分を明確に禁じたことです。
これは、公益通報者を保護することはもちろんですが、公益通報自体にも価値があり、公益通報が望ましいものであるとの考え方によるものです。
しかしながら、現実的に従業員が会社に対して公益通報をする状況を考えると、従業員が会社の誰に公益通報をするかがわからないなど、従業員としても公益通報に二の足を踏む可能性がありますし、会社としても適切な者が公益通報を受けることができるかわかりません。
そのため、会社として、公益通報制度を整えることが求められます。従業員からの公益通報を受け付ける体制を整え、その内容により直ちに実効性のある対応をとることができる組織を作ることになります。
公益通報者を保護することが法律で定められているとはいえ、公益通報者やその通報内容を目的なく広めて、強いて無用な疑心暗鬼や軋轢を生む必要はありません。そのためにも、公益通報制度を整備し、公益通報についての情報に触れる者を限定し、公益通報者を保護しつつ、会社として情報をコントロールし、共有すべき情報と、共有すべきでない公益通報者の情報などを区別していくことになります。
適切な公益通報制度を整えれば、より大きな不祥事を未然に防ぐことに繋がりますし、 組織の自浄作用への信頼が育てば経営トップが会社の問題点を早期に把握し、改善することにつながっていきます。
公益通報制度は、通常の経営組織から一定程度独立していることが望ましいです。そのため、独立した部署を設けたり、本社や親会社直属の窓口を設けたり、又は法律事務所など外部の組織を窓口として利用するといった工夫を行うことが可能です。