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労働条件の変更

1 労働条件の明示

法は,使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと規定しています(労働基準法第15条1項)。
仮に,使用者によって明示された労働条件が実際の労働条件と相違する場合は,労働者は即時に労働契約を解除することができます(同法同条第2項)。

 

 

 

2 人事異動

⑴ 昇進・昇格

昇進とは,企業組織上の地位である役職の上昇をいいます。昇格とは,基本給の判断基礎となる職能資格(職務遂行能力に基づく格付け)の上昇をいいます。これらの判断は,会社の上司等が従業員を観察して行う人事考課(査定)に基づいて決定されます。人事考課においては,仕事能力,勤務態度,業績等,各労働者の個別具体的な諸々の事情が評価の対象となりますので,使用者側に経営判断に基づく広い裁量権が認められると解釈されています。

 

そのため,労働者は,原則として,使用者による上記評価・決定がなされない限り,昇進・昇格した地位にあることの確認を請求することができません。もっとも,例外として,就業規則の定め等により,一定条件ないし期間を満たした場合等に昇進・昇格するということが契約内容となっている場合には,労働者は,昇進・昇格した地位にあることの確認を請求することができる可能性があります(裁判例)。

 

なお,人事考課が,差別や権利濫用にわたる場合には,労働者は,使用者に対し,損害賠償請求をすることが可能となります。

 

 

⑵ 降格

降格とは,役職又は職能資格を下げることをいいます。これには,人事考課に基づいて行われるものと,懲戒処分として行われるものの2種類があります。
まず,人事考課に基づいて行われる降格のうち,単に役職を下げるものについては,権利濫用にわたらない限り有効です。これに対し,職能資格を下げる降格については,基本給の低下を伴う労働契約上の地位の変更に当たりますので,これを使用者が行うためには,契約上の根拠(労働者の同意や就業規則上の規定)が必要であり,さらに,契約上の根拠が認められる場合でも,権利濫用と判断されるものは無効となります。
次に,懲戒処分として行われる降格については,第1に,「懲戒することができる場合」(労働契約法第15条),すなわち就業規則などにその根拠が規定されていることが必要となります。第2に,上記の「懲戒することができる場合」であっても,労働者の企業秩序違反行為の大きさと比べ,懲戒処分としての降格が不相当に重い場合には,社会通念上相当として是認できないものとして権利の濫用に当たり,無効とされる可能性があります。

 

 

⑶ 配転

配転とは,職務内容や勤務場所の変更のことをいいます(短期間の出張は除かれます)。長期雇用慣行が根付いている日本の企業において,労働者を1つの職場・仕事に拘束させずに,幅広い能力の開発や雇用の柔軟性確保という要請に答えることが期待されます。
ただし,使用者による労働者に対する配転命令につきましては,判例上,以下の2つの制約が課されています。

  • ア まず,使用者による配転命令が有効であるためには,配転命令をできる旨の規定が就業規則や労働協約によって根拠づけられていることが必要となります。
  • イ 次に,上記アのように就業規則や労働協約により配転命令することができる旨を規定されている場合であっても,①配転命令に業務上の必要性が認められない場合や,②不当な動機・目的で行われた場合,また,③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被らせるものである場合等には,特段の事情がない限り,配転命令は権利濫用として無効となるとするのが判例です。

 

 

⑷ 出向

出向とは,労働者が元の使用者との労働契約関係を維持しつつ,他の使用者のもとで就労することをいいます。出向は,配転と異なり,労働者の労務を提供する相手方である使用者の変更を伴いますので,これには労働者の承諾が必要となります。

 

 

⑸ 転籍

転籍とは,労働者が元の使用者との労働契約関係を終了させて,新たに他の使用者と労働契約を締結することをいいます。

残業代請求への対応

使用者は,労働者に対し,法定労働時間(1週間につき40時間,1日につき8時間)を超えて労働させることができないのが原則です。もっとも,法は,この例外として,一定の場合に法定労働時間を超える労働(時間外労働)をさせることができると規定しています。この時間外労働に対しては,割増賃金が支払われなければなりません。これがいわゆる残業代です。

 

 

 

1 時間外労働が有効であるための要件

使用者が,労働者に対し,法的に有効な時間外労働をさせるためには,労働基準法上の要件を満たしていること及び契約上の根拠があることが必要です。すなわち,実際に時間外労働を命じるためには,36協定の締結・届出などの労働基準法上の要件を満たすことに加えて,労働契約上時間外労働を行う義務を設定しておく必要があります。

 

 

 

2 割増賃金(残業代)

労働基準法上の時間外労働については,通常の労働時間又は労働日の賃金の2割5分以上5割以下の範囲内で命令の定める率以上の率で計算した割増賃金が支払われる必要があります(労働基準法第37条1項本文)。ただし,時間外労働時間が1か月につき60時間を超えた場合においては,その超えた部分の労働については,5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(同ただし書)。ここで,労働基準法上の要件を満たさずに行われた時間外労働についても,割増賃金の支払義務は当然及ぶと解釈されていることに注意する必要があります(判例)。

また,深夜労働,すなわち,午後10時から午前5時までの間の労働については,2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
さらに,時間外労働と深夜労働とが重複した場合には,割増率は合算され,5割以上(時間外労働が月60時間を超えた場合には,その部分につき7割5分以上)の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法施行規則20条)。

セクハラ・パワハラ

職場におけるいじめや嫌がらせのうち,相手方の意に反する不快な性的 言動を「セクシャル・ハラスメント」(セクハラ)といいます。また,職務上の地位や権限を利用したいじめや嫌がらせのことを「パワー・ハラスメント」(パワハラ)といいます。これらの行為が私法上違法といえるかどうかについては,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)や債務不履行に基づく損害賠償請求(民法第415条)などの要件に該当するかどうかという観点で判断されます。刑法上の観点からしますと,上記のいじめや嫌がらせが強要罪(刑法第223条)や強制わいせつ罪(刑法第176条)などの構成要件に該当する場合には,加害者は刑事責任も負う可能性があります。

 

なお,男女雇用機会均等法においては,性的な言動に対する対応により労働者が労働条件上不利益を受けたり職場環境が害されたりすることがないよう,事業主に対し雇用管理上必要な措置を講じる義務が課されています(同法第11条)。

 

また,使用者は,被用者が行ったセクハラ,パワハラが不法行為に当たる場合,使用者責任(民法第715条)を負う可能性があることに注意を要します。以下に記述する問題社員対策を講じることが求められます。

労災

労働者について生じた,業務上の傷病・死亡や,通勤による傷病・死亡につきましては,使用者側の過失を問わずに,労働者に対し,法律に定められた定型的な給付がなされます(労働者災害補償保険法)。これは,労働者を民法第709条の不法行為の立証の困難から救済するとともに,使用者の無資力のリスクをカバーする制度です。このような労災補償制度は,社会保険制度の形をとり,政府が,使用者から保険料を徴収して,被災労働者やその遺族らに対して直接保険給付がなされます。

 

 

1 業務災害

業務災害に当たるかどうかについては,①業務遂行性と②業務起因性により判断されます。①業務遂行性については,労働時間中に生じた災害はもちろんのこと,参加が事実上強制されている宴会や運動会において生じた災害,また,出張中(移動中や宿泊中を含みます。)に生じた災害でも,業務遂行性が認められるとするのが裁判例です。次に,②業務起因性については,業務に内在する危険が現実化したといえる場合に,これを認めるのが裁判例です。例えば,平成7年に生じた阪神大震災の際に生じた災害については,震災を受けやすい場所で勤務していたということで,業務起因性が多く認められました。

 

 

2 通勤災害

通勤災害とは,「労働者の通勤による負傷,疾病,障害又は死亡」をいいます(労働者災害補償保険法第7条1項2号)。ここにいう「通勤」とは,自宅と勤務先の往復のみならず,単身赴任者等の住居間移動等も含まれ,これらの場所の間を合理的な経路と方法で移動することをいいます。もっとも,夕食の買い物という日常生活上必要な行為であったとしても,移動経路からの逸脱が認められる場合には,「通勤」に当たりません。

問題社員対策

1 予防策の重要性

ひとたび労働関連紛争が発生しますと,労使間双方に派生的な不利益が生じ得ます。問題社員の存在等により他の労働者が不満をもち,仕事のモチベーションが低下すると,その能力の十分な発揮に支障が生じ,ひいては優良社員の離職といった事態を招きかねません。また,使用者側にとっても,紛争解決コストが生じ,裁判ともなれば会社の社会的評価が下がるリスクがあります。これらのことからしますと,問題発生後に紛争解決するよりも,事前に紛争解決システムを構築しておくことが重要といえます。

 

まず,使用者としましては,労働者の意見・要望を受け止めるシステムを構築することが効果的です。労使協議機関,職場懇談会,社員会や,苦情処理制度,提案制度,自己申告制度,従業員意識調査,人事担当者による面会,個人面談等を設けることが考えられます。このような多様なコミュニケーション手段を設けることにより,問題が顕在化する前に予防することが可能となります。

 

また,企業の社会的責任(SCR)の一環として使用者が労働環境の整備をすることも重要です。これは,企業が自発的にコンプライアンスや社会貢献を進める活動を意味するもので,これにより,紛争を未然に防ぐことによる紛争解決コストの削減と労働者のモチベーションの向上及びそれに伴う企業の生産性の向上とともに,外部的にも企業の社会的評価が向上し,優秀な人材を確保・養成することが期待されることが近時指摘されています。

 

 

2 各種紛争解決システム

⑴ 行政による紛争解決

使用者に対しても,各都道府県労働局により設置された総合労働相談コーナーの利用,都道府県労働局長による個別労働関係紛争についての助言・指導,紛争調停委員会によるあっせん等による紛争解決手段があります。

 

 

⑵ 労働委員会による紛争解決

労働関係調整法は,当事者による労働争議の自主的解決を援助するため,労働委員会による労働争議の調整制度を定めています。ここにいう労働争議とは,労働関係上の当事者間の主張の不一致により争議行為が発生している状態又は発生するおそれがある状態をいいます。この調整制度の内容としては,あっせん,調停,仲裁などがあります。

 

 

⑶ 裁判所による紛争解決

ア 労働審判手続

労働審判手続とは,労働紛争が発生した際に当事者(使用者,労働者)の申立てにより,裁判官(労働審判官)1名と労働関係の専門的な知識経験を有する者(労働審判員)2名で組織された労働審判委員会で紛争処理をする手続をいいます。これは,労働関係の専門知識経験を活かして,労働紛争の実情に即した迅速・適正な解決を図ることを目的とした制度です。労働審判委員会は,速やかに争点及び証拠の整理を行い,原則として3回以内の期日において審理を終結しなければなりません。

 

イ 民事訴訟

通常の民事訴訟手続を利用することができます。ここでは,慎重かつ本格的な審理が行われるため,真実追及に資する反面,手続が重くなるというデメリットに加え,前述のとおり企業の社会的評価が下がるリスクも生じ得ます。もっとも,民事訴訟手続において和解により解決する事例も多いです。

 

ウ 少額訴訟・民事調停

訴額60万円以下の金銭支払請求事件については,簡易裁判所において原則1回の口頭弁論で審理される少額手続訴訟を利用することができます(民事訴訟法第368条)。
また,民事調停法に基づいて通常の民事調停を簡易裁判所で行うこともできます。

 

エ 保全

被保全権利の存在と保全の必要性が認められる場合には,後の訴訟の準備のために,簡易迅速な審理により裁判所が仮処分や仮差押えを命じることによって,権利の保全を図ることができます。

 

 

⑷ ADRの活用

訴訟に代わる紛争解決手続として,労働紛争についても私的仲裁システムを利用することが考えられます。弁護士を同席させ即時に意見を求めることにより,効果的な活用が期待できます。

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